不動心 呂 洞賓

呂 洞賓
りょうどうひん
794年
唐時代の中国の仙人であり、道教の代表的な八人の仙人(八仙)の一人である。
師匠であり同じく八仙の一人である鍾離権(しょうりけん)より秘法を授かり道士になったと言われる。
その姿は背に剣を背負った書生の姿で描かれる事が多く、同じく八仙である、韓湘子(かんしょうし)や女仙の何仙姑(かせんこ)などを導いたとされる。
幼い頃より聡明で1日に万言を記し、好んで華陽巾(かようきん・隠者の被る頭巾)を被り、黄色い襴衫(らんさん/唐時代の着物)を着て胸に黒い板をぶら下げていたと言う。
出世を目指して科挙(歴史上最難関とされる中国の官僚登用試験)を2回受験するが落第した。
そんな折に長安の酒場にて鍾離権(しょうりけん)と出会い修行の道に誘われたが、出世の夢を諦めきれず断った。
ある時、呂洞賓(りょどうひん)は、黄粱(粟ご飯)を炊いている間の僅かな時間にうたた寝し夢を見た。
夢の中では科挙に合格して出世し良家の娘と結婚して沢山の子をもうけ、そうして40年が過ぎた頃に重罪に問われ家財が没収されて左遷に遭い、家族は離れ離れとなった。
そこで目が覚めたが黄梁 (こうりょう)はまだ炊けていなかった。
微かなうたた寝の間に一生を垣間見た事で俗世の儚さを悟った呂洞賓は、鍾離権を探し出して弟子入りを申し出ると、鍾離権は呂洞賓に十度の試練を与えた。
第一の試練は、呂洞賓が外出から戻ってくると家族全員が死亡していたが、彼は嘆く事なく淡々と葬儀の準備をしていると家族は生き返ったが、呂洞賓は驚かなかった。
第二は、呂洞賓が市場に物を売りに行き値段を決めて取引が成立したが、相手が約束を破り金を半分しか払わなかった。しかし呂洞賓は何も言わなかった。
第三は、物乞いが呂洞賓に施しを求めてきたので物を与えた。しかし物乞いは更に物を求めて呂洞賓を罵倒した。しかし、呂洞賓はただ笑って謝るのみであった。
第四は、呂洞賓が山中で羊を放牧していると一匹の虎が羊の群れを追いかけてきた。呂 洞賓は羊を下山させ虎の前に立ちはだかると虎は去っていった。
第五は、呂洞賓が山中の小屋で読書をしていると17歳ほどの美女が現れて3日間の誘惑を受け続けたが最後まで心を動かさなかった。
第六は、呂洞賓が外出から戻ると家財が全て盗まれていた。しかし怒ることもなく畑を耕し始めた。すると土の中から金塊が出てきた。しかしその金塊をまた土に埋め直した。
第七は、呂洞賓は街で銅器を買って帰ったが見るとそれは全て黄金で出来ていた。直ちに銅器の売主の元へ行きこれを返した。
第八は、気の狂った道士がおかしな薬を売っていた。その薬を飲むとたちどころに死んでまた生き返ると言うので、その薬を買って飲んでみたが何も起こらなかった。
第九は、呂洞賓は大勢の人々と共に河を渡っていたが突然に風が吹き荒れ、荒波がうねり人々は恐れおののいたが呂洞賓は動じなかった。
第十は、呂洞賓がひとり部屋に居ると奇妙な化け物が現れ呂洞賓を殺そうとした。しかし正座したままで少しも動じなかった。続いて数十もの夜叉が襲いかかってきた。
血だらけの化け物が泣きながら、お前は前世で私を殺したので、その償いがほしいと訴えた。呂洞賓は自分が殺したのなら償うのが道理だと言い、刀で自殺しようとした。
すると突然、空中に大声が響き渡り、鬼神達はみな姿を消した。
見るとただ一人手を叩いて大笑いする者がいた。
それは鍾離権であった。あなたを十度試したが心が堅く何事にも動じない。きっと仙人になれるだろうと言い呂洞賓を弟子にしたと言う。